1.世界の人々の健康について大きな影響力をもつWHO。実際どのようなところであり、どのような機関なのか学ぶ。また、世界的に猛威を振るったSARSについて話を聞く。
2.EUという一つの地域の中で医療は統一化の動きはあるのか、各国ではどんな医療が行われているのか現地の様子を学ぶ。
八月十日〜十二日、二十四日〜二十五日 ロンドン(ロンドン医療センター・診療所)
八月十五日 パリ (ホスピスアメリカ)
八月二十日〜二十一日 ジュネーブ (WHO本部)
坪内 和哉 (九州大学医学部三年)
村上 剛史 (九州大学医学部三年)
1.スイスのジュネーブにあるWHO本部を見学し、そこで諸岡先生と進藤先生からお話を聞くことができた。諸岡先生はドナーからの寄付金を徴収し、またWHOで作られたプログラムなどを企業等に売り出す仕事をされている方である。そして進藤先生はインフルエンザやSARSなど世界中で蔓延しうる感染症に対して予防法・対処法を提案したり、警告の発令を出したりされている方で、今回のSARS対策にもご尽力された。
2.EUという枠組み内での医療の統一化については、事前の学習やWHOで働いていらっしゃった中村さんにお話を伺って、全く医療の統一化は行われていないということがわかった。そこで一つの枠組みの中でどれだけ異なった医療が行われているのか比較してみたいと思い、イギリスとフランスの医療について学ぶことにした。残念なことにパリでフランスの医療についてしっかりとした話を聞く機会を得ることができなかった。ロンドンではロンドン医療センターでイギリスの医療制度やその病院について話を聞き、ロンドン郊外でsurgeryを開いているDr.RAYに話を聞くことができた。Dr.RAYの粋な計らいによって、休日の救急病院の様子をうかがう事ができた。今回フランスについで十分に見てくることができなかったのでイギリスの医療について日本と比較しながら報告したいと思う。
WHOは、国際連合の専門機関であり、46年、ニューヨークで開かれた国際保健会議が採択した世界保健憲章(48年4月7日発効)によって設立され、「すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」(憲章第1条)を目的としている。日本は51年に加盟が認められた。
WHOの予算は二年制であり、加盟国の義務的分担金(各国の分担率は国民所得等に基づいて算定される国連分担率に準拠)により賄われる通常予算(Regular Budget)と、加盟国及びUNDP、世界銀行等の他の国際機関からの任意拠出に基づく予算外拠出(External-Budgetary Contribution)からなっている。
通常予算は、主として職員の給与、会議の開催、保健・医療に関する調査・研究、情報の収集・分析・普及、器材購入、各国政府に対する助言等に振り向けられ、予算外拠出は、通常予算ではカバーできないフィールド・レベルの技術協力等を中心とした事業活動に使われている。予算が二年制であるのでプロジェクトも二年計画のものがほとんどであり、一旦二年で大幅に見直している。財政負担例として2000−2001年の一般会計予算は8億4,265万ドル(2年間の総額)である。一般予算の財源は、加盟国の義務的負担である分担金により賄われる。2000年の日本の分担率は20.244%で、分担金は約8,400万ドル。米国(分担率25%)に次いで第2位の拠出国となっている。また、このほかにも特定の重要課題(新興・再興感染症対策、医薬品安全対策、食品安全対策など)における技術協力等の推進に資するため、任意拠出を行っている。
WHOは各加盟国により構成され、1年に1度開催される世界保健総会を最高意思決定機関としており、総会で選出された32か国が推薦する執行理事により構成される執行理事会が、総会の決定・政策の実施、総会に対しての助言または提案を行っており、総会の執行機関として行動するという仕組みになっている。我が国は加盟以来、9回にわたって、執行理事会の理事指名国に選ばれている。
総会では一カ国一票ずつ持っており、事業計画の決定、予算の決定、執行理事国の選出、新規加盟国の承認、憲章の改正等を行うほか、保健・医療に係る重要な政策決定を行う。そのような様々な条約や基準などを作成するにはまず専門家が原案を作り事務局から一定のプロセスを経て総会へと持ち込まれる。一方、予算外拠出については、WHO事務局が作成した事業計画案についてドナーとWHO事務局間で協議を行い、決定される。決定後の案件実施の仕組みでの通常予算については、定められた項目別に事務局が事業を実施する。事業の実施状況については、執行理事会・総会に報告がなされる。終了後にはWHOからドナーに対し、報告が行われる。
WHOだからといって全く特別な存在なわけではなく、国でいえば厚生労働省のようなものである。WHOの大きな機能にはまず基準を作ること、そしてコーディネーターとしての役割が挙げられる。前者は国に対して衛生関係の法律を作成したり、ある予防接種に関しての投与量や投与法などのガイドラインを決定したりすることである。国のレベルでいうと都道府県に対して病院数や救急の設置数を決定するようなものである。後者は国や地域のさまざまな目標を達成するための手助けや教育を施し、経済的に援助し、法律を作り出す。
保健衛生の分野における問題に対し、広範な政策的支援や技術協力の実施、必要な援助等を行っている。また、伝染病や風土病の撲滅、国際保健に関する条約、協定、規則の提案、勧告、研究促進等も行っており、ほかに食品、生物製剤、医薬品等に関する国際基準も策定している。ただ研究機関などはなく、大規模なラボもない。そのため薬剤やワクチンなどの開発はWHOが独自に行っているわけでなく、製薬会社等に委託しているのである。
地域事務局(日本はマニラにある西太平洋事務局)が主体となって行っている仕事の大半は、WHOの事業のうち最も重要なものとして位置づけられている各国に対する技術支援であり、より現場に近いものである。これに対して、WHOの全予算の約7割が振り向けられている。技術支援は、通常(1)専門家の派遣、(2)資材供与、(3)フェローシップの提供という形式で与えられる。ただそのような現地への直接的な援助などは受け入れ側の承諾がないと行えないものであり、要望があって初めて行える。WHOから自発的には動けないのである。また第一にコーディネーターとしての役割が重要であるので、WHOから特別に現場で働く人材を多く派遣するとは限らない。例えば必ずしもWHOの職員が直接注射の接種などを行うわけではないし、イラクへの人員派遣など現地での採用も多い。また現場で働いている日本人はWHOではなくJICA職員だということもある。
WHOに勤めている職員にはtechnical unitに所属している技術者が多い。仕事内容も人事、財政、対外交渉、スポークスマンなど様々である。専門職(professional staff)は2000人いて医者や会計士、法律家などの専門家が多い。法律家などによってプログラムを実行できるように契約書を作る。一般職(general staff)は4000〜5000人おり、運転手や秘書、ガードマンなどとして働いている。
自ら就職を希望する場合、あるポストが空いた時に広告が出され、それに応募するという手段がある。その際、履歴書と面接でふるいにかけられる。もし世界的に有名な大学出身でなかったら一次審査で確実に落とされる。WHOのような国際機関は非常に学歴社会であるので日本の大学を卒業しているだけだと相手にもされない。もちろん業績や論文もスクリーニングされるので大切である。実際には性別バランスをとるために女性の方が、そして二重国籍をもっている人は有利な国籍を申告したほうが採用されやすい。ただ派遣社員も多く、お世話になった先生方も厚生省からの派遣であった。(契約期間は二年)そのような場合給料は厚生省からも支払われる。ちなみにいわゆる出世のシステムはなく、上級のポストが空いた時も個別に応募することになる。さらに上の役職の場合はアポイント制であり、事務局長は選挙で決められる。
邦人職員は専門職のみで約40人と少数である。その理由にはいくつかあげられる。きちんと結果を出すことができる能力を備えていないと追い出されるため保障がなく魅力的でないからである。日本では仕事をやり始めた者を指導していくという考えがあるが、ここでは使えるか使えないかであり教育の考えは皆無である。そしてWHO本部内の公用語といえる英語やフランス語を流暢に話せる人が少ないためでもある。国別で見ていくとイギリス人が一番多いが、それは公衆衛生を学びたい人が比較的多いためや、国内では医師があまり優遇されてないためであろう。その次はカナダやオーストラリア、ヨーロッパ系が多い。またなぜアメリカ人があまり多くないかというと医師としての給料が国内で十分高いからだということが考えられる。
WHOは新たに発生した感染症(エボラ出血熱、新型インフルエンザなど)や、すでに克服されたと思われていた感染症の再興(コレラ、結核など)が、世界的規模で大きな問題となっていることから、これらを「新興・再興感染症」の問題として総合的・重点的に対策を講じている。96年には新たな部局を設け、世界的常時監視網の構築、集団発生時に迅速かつ的確に対応するための体制確保、科学的で正しい知識や対策の普及に努めている。そのような世界中のアウトブレイクを調査しており、対インフルエンザを含め四つのWHOのラボステーションがある。実際インフルエンザは先進国ではよく調べられておりpandemicに備えている。だが途上国ではあまり調べられていないのが現状である。
最初はインフルエンザを中国で追跡している最中にH5N1が出現しワクチンを作っていたのだが、その間にインフルエンザとは違う病気が出始めた。それがSARSであった。感染者の60%が発病し、その半分は重症化する大変危険な感染症である。患者数が爆発的に増え始めた危険な中国はさまざまな援助を受け、日本にも検体が運ばれ調査が本格的に始まった。そしてそれはヒトのあいだでかつて見られたことの無い病原体で、SARSの原因である新種のコロナウイルスだと発表した。10カ国13カ所の研究施設が緊密に国際的協力を行った結果、1,2ヶ月という異例の速さで同定された。このようにウィルスを早く同定する理由は不安を和らげ、基礎的研究からの知見の数々を診断技術へ転換していく取り組みの方法を計画するためである。そうした技術は、この疾病を効果的に制御していくために役立つことになった。最初は患者の隔離や検疫をし、リバビリンなどのステロイド剤を患者に与えるだけであったが、疾患特異的治療や、やがてはワクチンといった最新の感染拡大防止対策へ意欲的に移行していくことができるようになると考えられる。
交通網が非常に発展したおかげで我々の生活は便利になったが、感染症に関しては一気に助長するものになった。約20年前までは船舶や鉄道だけだったので7,8ヶ月で世界中に広まるといわれていたが、現在は航空が発達しているので一週間で蔓延するといわれている。それらを踏まえWHOの集団発生における裁量権の強化が、重要な形で行われ、政府の公式報告に頼る受け身の姿勢から、ある集団発生が国際的な公衆衛生に対して危険を及ぼすことを、事実が示唆したら直ちに世界へ警告するという積極的な役割を果たすことができるようになった。そうして史上初めて国々の公益に被害を及ぼす渡航自粛勧告を発令することになった。これはアジアだから発令したというものではなく今後このように重篤な感染症が広い範囲で蔓延することになるならばどの国に対しても施行されるという。だがこれも勧告にすぎず責任を取らせるような効力はなく各国に依存している。ただこのような発令を出したのもWHOの最大の目的は経済などではなく健康だということが伺える。
当初中国が自国の損得だけを考えていたため、SARSに関しての調査結果を保健省の上層部にまで報告していなかった。(そのため保健省の大臣は解任された。)香港も1999年の返還以降はそのような風潮にあるので情報がスムーズに回らなかった。一定期間隠し通したことで、影響が大きくなったことは否定できない。こうして国際的に感染が拡大する可能性があるあらゆる疾病の症例を、即座にすべて発表する重要性がSARSによって明らかにされた。このように中国の発表が非常に遅れたことを踏まえて、現在は国同士で契約してWHOへの報告が義務化するIHR(international health regulation)を考案しているところである。
ちなみに日本に感染者が現れなかった理由には、衛生概念が確立していたことなどが挙げられるが単に運が良かったとも言えるそうだ。
(文責 村上剛史)
正式国名: グレート・ブリテンおよび北アイルランド連合王国
人口: 58,800,00人 (イングランド人83%、スコットランド人8%、ウェールズ人5%、アイルランド人3%など)
面積: 241,752k? 首都: ロンドン 政体: 立憲君主制
宗教:英国国教会85%、カトリック10%など 言語;英語
(日本は面積 378,000k? 人口12,6860,000人)
イギリスにはNHS(National Health Service)に登録している医師のいる病院とプライベートクリニックがある。NHSは1948年に発足し,国民の税金の約四割により国営されている。NHSには6ヶ月以上の滞在者とその予定者は国籍や職業に関係なく、すべての人が加入できる。NHSに登録していて人にPrimary Careを行う医師のことをGeneral Practitioner(GP)という。イギリスの医療と日本の医療を比較した場合、一番の特徴的な違いはGPの存在である。病気にかかった人はまず自分が登録しているGPのもとへ行くのである。プライベートクリニックはNHSに加入してない人、加入できない人も受けることができる医療である。プライベートクリニックで働いている医師はNHSに登録してないので、厳密に言うとGPではないようである。しかし、業務内容はほぼ等しい。今回私たちが訪問したDr.RAYはNHSのGPであり、ロンドン医療センターはプライベートクリニックである。NHS加入者は医師の診察が国の負担であるからほとんど自己負担はない。(歯科治療費などの一部は除く。)個室や小部屋を備えている病院もあるが、この場合は、差額が徴収される。一方プライベートクリニックは全額負担である。私費診療を希望する患者用に私費ベッドがあるNHS病院や外部の民間病院もあるが、入院費、診療費は全額自己負担となる。
イギリスでの医療の流れを追ってみる。病気にかかるとまず患者は自分担当のGPに診察してもらう。もちろんNHSの病院でなく、プライベートクリニックに行ってもよい。このとき、診察してもらうには予約が必要となる。診察を受けるまで時間がかかるのである。GPは訪れた患者に対しPrimary Careを行う。専門的処置が必要となった場合はGPが専門医に患者の情報を詳しく伝え、患者を専門病院(Secondary Hospital)へ送る。もちろん予約が必要である。予約して待っていては遅い場合、つまり救急の場合は救急病院に通うこととなる。ダイヤル999に連絡して救急車を呼ぶ。命に関わる治療以外は全額負担のプライベート医療扱いになる。しかし、救急の場合すべての患者がやってきては病院が機能するはずはない。そこでNHSは1998年よりNHSダイレクトというサービスを行っている。NHSダイレクトとは24時間365日体制の看護婦による電話医療相談やWebサイトでの健康に関する情報の提供、Emailによる相談や問い合わせなどNHSによって行われているものである。NHSダイレクトの目的は信頼性の高い医療アドバイスを提供してセルフケアができるように指導すること・不必要な医療の要求を減らし、医療サービスや医療費を効率的に活用することである。模式図にしてみると次のようになる。
病院数はNHSの病院が全体の約9割を占め、プライベートクリニックは1割にすぎない。NHSの統計によるとNHSの医師数は95,637人である。一方日本の医師数は243,201人である。人口1000人に対する医師の数を計算するとイギリスは1,7人、日本は1,9人である。人口も医師数もイギリスは日本に比べ半分程度なので、1000人あたりの医師数は等しくなっている。イギリスの人口1000人あたりのベッド数は4,3床。(日本は2.7床)医院(イギリスではGPsurgery)の総数は8,944箇所、一方日本はなんと94,019箇所である。医院の規模についてみてみると、イギリスの医院のうち、4人以上の医師がいる医院は64,3%である。日本の効率の悪さがわかる数値の比較である。各医院の抱える平均患者数は1,853人、対して日本は1,367人である。
次にGeneral practitionerについて述べる。NHSのGPはNHSに登録した人々に対しPrimary Careを行う。ある一定地域がそれぞれにふりわけられている。郊外ではちょっとした小さな建物を診療所とし、都心ではビルなどのオフィスのような場所で開業している。Primary Careを行うので入院施設のある病院はない、GPの業務は ?小規模の外科治療 ?母子保健業務 ?性教育・家族計画業務 ?慢性疾患医療 ?予防医学 といった内容である。患者が専門医に診てもらう必要が場合の病院・専門医への患者の分配・紹介や、高度医療機関への患者情報提供も業務の一部である。GPの診察室には打鍵器・聴診器などのちょっとした医療器具と机と椅子があるくらいである。Primary Careなので使用する薬も決まっているので、セットになった薬がある。処方の際も薬の説明を十分にGPが行っている。GPは年間で登録患者数に応じて算出された予算金を受け取り、地域の特性に応じて受け持ち患者の医療サービスを決定している。治療費は前述の通りNHS登録者は無料である。よって私費診療を別にすると、GPの給与は国からの予算金だけである。NHSに登録した人は申込用紙に記入し、NHSナンバーが与えられる。カルテには患者の情報がしっかり書かれており、専門医へ患者を送るときに、具体的に患者の状態がわかるようになっている。一つの紙袋の中にその患者の診断結果、テスト結果がまとめられている。検査場合、他の場所にある検査所に送るので紛失、混合などに細心の注意が必要となる。70歳で定年退職するのが普通である。新しいGPは開業する場所を決められるが、政府が予算金を配当するので、GPの多くいる地域での開業は許されない。大体1地域3〜4人である。
二次病院に隣接して建っている。多くの患者は交通事故で運ばれる人が多い。二次病院が隣接しているため、専門医もいて専門的な処置も可能である。私達の見学した救急病院は平日19:30〜21:30、土・日は13:00〜17:00までであった。救急病院内には休日の当番医によるPrimary Careを行う場所もある。Harumoniという名前でGPがいて診察を行っている。Primaryレベルの救急患者はここへやってくる。救急の場合,たいてい患者は自分のGPに電話をする。そして、電話を受けたGPが救急病院に連絡をして患者についての情報を詳しく伝える。患者は救急病院につけば受付用紙に記入し、医療をすぐ受けることができる。一つの救急病院が担当するのは六人分のGPの地域である。休日の担当医は地域のGPが交代で行っている。日曜日の担当だと次の日朝から診察で大変だとその日のGPは話してくれた。当番の頻度は年に六回である。日本に比べるとすごく少ない。GPが開院していない時間や緊急の場合、ここがあれば安心だと感じるが、実際はそうではないようだ。その原因は救急を必要としない人まで通院することにある。それによって本当に必要な人に十分時間が費やせなかったり,待ち時間が長くなったり、時間通りに病院を閉めることができなかったりしているのが現状である。予約なく診療を受けられるフリーアクセスなので、近くに住む人は便利だと思い通院するようである。実際私達が見たときも人でいっぱいであった。NHSはこの状況を見てNHSダイヤルを始めたのである。救急医療現場がいっぱいいっぱいの状態にあるのは日本も似ているところである。
NHS以外の病院つまり、プライベートクリニックである。日本人の院長が開業した日本人を特に対象とした病院である。開業によりより始まったのでイギリスの医療制度に従っている。だから、専門医療を必要とする場合はNHSの病院を紹介する。ロンドンには他にも日本人向けの病院があるのだが、そちらは政府間の交流で行っているものでイギリスの医療制度とは別枠である。ロンドン医療センターには医者4人,ナースはイギリスの免許を持っている人2人と、日本のみの免許を持つ人が20人。この20人の人たちは医師がそばにいれば看護ができる。病院に薬剤部もある。24時間緊急応答体制をとっている。患者の99,9%は日本人である。診療を受けるには予約が必要で、診察時間は予定では15分であるが、実際は20〜30分かけているそうだ。業務内容は全くGPと同じであり、Primary Careを行う。よって入院施設もない。健康診断も業務内容なので、レントゲン室やエコー室はあった。違うのは患者の負担額が全額のところである。GPは担当患者が決まっているが、プライベートクリニックはそうでないので患者の獲得が大変らしい。広告担当者がいて患者の確保を行っている。こちらの病院は採算がとれているそうだ。ここでプライベートクリニックの利用理由について。NHSの病院は確かに無料であるが、待ち時間が長い。我慢できない人や安心のある医療をお金を出して受けようとする人が利用する。この病院について言えば、日本人医師のため自分の意志がちゃんと伝わるという安心を求めて受診している。医療面での貧富の差が生まれてしまっている。
インド人でNHSのGPであるDr.RAYは平日時間をずらして三箇所で開業している。私たちはそのうち二つを見学した。どちらも日本の病院のような概観はしておらず、むしろ一軒家のイメージをもった。中はどちらも診察室、待合室、受け付けで、働いている人は1人または2人である。診察室の中は前述のように必要最小限のものだけである。診察にはもちろん予約が必要である。DR.RAYは約2000人の患者をもっているそうだ。カルテを見せてもらったが、患者のアレルギーなど重要事項が書いてあった。机には予約者のリストが並んでおり、カルテがそばにあった。診察の様子を見せていただいたが、しっかりと時間をかけて、患者と対話を行って診療している姿が印象深かった。
日本の医療は国民皆保険体制で、現物給付方式をとっている。患者は保険証を使っていつでも、誰でも、どこでも自由に診療を受けることができる。日本は「フリーアクセス」と「公平性」を重視した医療制度である。それと比較すると、イギリスの医療制度は「公平性」と「質」を重視し,「アクセス面」は重視していないように感じる。NHSに登録していれば無料で医療を受けることができ、一次医療二次医療がしっかりしていて質の高い医療がうけられる。しかし、それゆえ極度の医療費不足が生じている。医療予算不足から医師・看護婦の不足→医師一人当たりの担当患者増大→医師・看護婦の疲弊による医療ミス、と悪循環を招いている。また、医師に入ってくる医療費が基本的に定額であるため、医師の技術向上へのインセンティブの低下により、技術の確保が難しくなっている。きつい・安いという理由から医者という職業はイギリスではあまり人気のない職業なのである。また、このイギリスの医療制度の弊害として「待ち行列」という現象がある。医師不足のため、GPに受診できるまでに数週間を要する(救急の場合は別である)とか、手術を受けるまでに3ヶ月、長い場合は18ヶ月も待つ、というのは、 さすがに患者の「忍耐」の限度を超えている。また二次医療のレベルにも地域差が大きく、専門医の教育が不十分であることがある。このような問題を解決していく必要がある。どの国も医療面において問題を抱えているのである。
(文責 坪内和哉)
数多くある国際機関のなかでも特に著名なWHOを自分の目で直接見学でき、また日本人スタッフの方から新鮮なお話を伺えたことなど、とても貴重な経験ができた。そして優秀な人材が多いため競争が激しく、また影響力が強く責任の重い仕事ばかりであるような厳しい職場で、お世話をしてくださった方々を始めとして真摯に働いてある方々の姿に感銘を受けた。
諸岡さんの粋な計らいでILOやUNAIDSなどで働いてある日本人スタッフの方たちと一緒に食事ができた。そのときに日本の医療制度についてディスカッションをし、国際社会でやっていく上で必要な資質や留学のことなど、さまざまな興味深いお話ができたのも、非常によい刺激を受けた。
前年度とは違い、自分たちで初めて企画を立ち上げたのだが、なかなか思うように進行せずに苦労した。しかしそのぶんとても充実したものになった。(村上)
外国の医療制度を学ぶだけではなく、生でその現場を見ることができて非常によかった。なにげなく受けていた自国の医療について、他国の医療を見ることで改めて考えることができた。どの国にも抱えている問題はあり、今後どの国も解決を目指し、働きかけてなければならない。Dr.RAYの話を聞いていると、自国の制度をどう良くしていけば真剣に考えているのがわかった。一人一人の医師が自国の医療を考え、患者のことを考えていけばよくはずだと感じた。もちろん医師だけでは実現しないが。
今回は一カ国のみだったが、今後も様々な国の医療制度や医療現場を見てみたいと思った。それぞれに長所があり、そして短所がある。それらをこの目で見て、自分のやれることをやっていきたいものだ。
自分たちで考え、実行した今回の活動で私たち二人はそれぞれ感じることがあった。様々な苦労があったが、充実したものになり、成功といえよう。今回の貴重な経験を活かせるように頑張っていこうと思う。
最後になりますが、お世話になった方々、本当にありがとうございました。(坪内)