国際寄生虫学会班


(1)はじめに

 アジアでは初の開催となる国際寄生虫学会が千葉で開催された。私たちは,その特別セッションである学生フォーラムの準備・運営を通じ,寄生虫感染症と寄生虫学の現状をつぶさに学ぶことを第一の目的とした。また,寄生虫学が今後どのような道行きを歩もうとしているのか,あるいは歩むべきなのかを,学生の立場から議論できればと考えた。低学年主体であり,企画運営を中心とした,熱研としては異例の活動であったが,十分な学習と議論を通じ,各人が自分なりの「医療観」あるいは「学問観」を熟成させてゆくための土台を築けたと自負している。


(2)活動の概略

1.日程

8月17日 博多駅発
  19日 「社会医学サマーセミナー」参加(秋田県十和田湖)
  21日 「社会医学サマーセミナー」終了
  24日 国際寄生虫学会第1日(千葉県幕張メッセ)
  25日 「学生フォーラム」開催
  26日 国際寄生虫学会第3日,終了後千葉駅発 博多駅・福岡空港着

2.参加者

 熱帯医学研究会 部員5名  
 企画協力者 学外学生多数

3.参加企画の概要

・第9回国際寄生虫学会(8月24日〜28日)

 4年に一度開催される国際寄生虫学会の第9回総会は,千葉の幕張メッセで行われた。この学会には,本学の多田功教授(熱研前会長)も科学プログラム委員長として参画され,本班を中心とする医学生有志が「学生特別フォーラム」の企画・運営にあたった。このフォーラムでは,寄生虫学と寄生虫学教育のあり方について,学生,研究者からの活発な議論が交わされた。

・社会医学サマーセミナー(8月17日〜19日)

 全国の社会医学系教室(公衆衛生学,衛生学など)の教授が,毎年開催している学生向けセミナーである。第1線の教授陣により集中講義が行われ,最後に学生同士のディスカッションがある。例年,自然に恵まれた名所が会場に設定されるが,今年は弘前大学が主管となって,十和田湖で開催された。


(3)活動の詳細

・国際寄生虫学会

 98年4月に多田先生からこの件でお話をいただいた後,熱研部員の参加を募り,また上記の企画協力者に協力を求め,正式に準備を開始した。下級生が多い班であったので,寄生虫学や国際医療援助の歴史等の基礎から勉強していった。また,並行して,全国の医学部寄生虫学教室あてに参加者募集の案内を送付するなど,事務的な内容も精力的に行った。班会議は週に2,3回であり,深夜にまで及ぶことも少なくなく,班員は一線のビジネスマンのような忙しさだったと言える。

 7月には,事前準備として,門脇,野田の2名で関東地区の関係者を個別に訪ね,企画の詳細を詰めていった。この時点で,全国の寄生虫学教室より参加学生の推薦をいただき,学生参加者が60名をこえる見通しとなった。寄生虫学に興味・関心を抱く学生に夏休みの一定時期に千葉に集まってもらうということで,参加者が少ないのではないかと危惧していたが,たいへんに多くの参加をいただいて,努力が報われたとみな喜んだ。

 また,1ヶ月程度をかけて,班にて「学生フォーラム」パンフレットを作成した。このパンフレットは,国内外の寄生虫疾患の現状や対策計画の詳細をまとめたもので,資料収集の過程で滋賀県彦根市や東京大学医科学研究所の協力を得た。また,インターネットによる情報収集もたいへん役立った。完成したパンフレットは,参加予定者全員に送付した。

 当日は,全国各地から寄生虫学に関心のある64名の医学生,獣医学生が集まり,さらに多田先生以下数多くの名高い先生方のご参加を賜ることとなった。最初に,東海大学の相川教授,慶応大学の竹内教授が学生向けに講義を行い,その後にフリーディスカッションに移る2部構成である。

 相川,竹内両先生の講義はほぼ10分と短いものであったが,マラリアを取り巻く世界的な状況,経済損失,寄生虫症一般の対策など,示唆に富む内容で,加えて続くディスカッションに向けてのほどよい潤滑油となった。フリーディスカッションは,1時間にわたり学生から先生たちへの鋭い質問が続くこととなり,企画側の学生が意図した効果が得られたと思われる。先生方と学生の活発なやり取りは予定の時間では収まりきれないほどのものであり,企画は盛会のうちに終了した。

 なお,この学生企画の発言抄録および事前パンフレットの内容(マラリアを中心とした国内外のデータ・エピソード等)は以下のホームページにて公開されているので,興味のある方はご覧いただきたい。

  http://square.umin.ac.jp/noda/


・社会医学サマーセミナー

 十和田湖にて開かれた社会医学サマーセミナーの議題は,例年,「社会医学とは何か」であり,今年もまたその線にて講義とディスカッションが組み立てられていた。

 東京から青森まで新幹線,ローカル線と6時間をかけて乗り継ぎ,着いた先はひなびた田舎町であった。その田舎町からさらにバスに揺られること1時間半で会場にやっとたどりつく。東北の方には申し訳ないが,まさに地の果て(みちのく)といった趣である。冷涼な気候によるのか,静けさが支配する十和田湖の雰囲気に包まれてセミナーは始まった。

 もともと社会医学は,健康と社会に関することならたいていのことを扱っている分野なので,裾野が広く,先生方の講義も千差万別百花斉放である。その内容をこの報告書でいちいち示すのは煩雑となるので避けたいが,一般的な印象として,健康増進にまつわる理念的なお話よりも息の長い実地経験をベースにした疫学の話題が学生の興味を引いたようである。寄生虫学会にても感じたことであるが,ある分野に興味のある学生は,理念的な‘聞こえの良い’話よりも,実地的で‘泥臭い’内容の方に案外魅力を感じるようである。


(4)謝辞

 この企画を運営するにあたり,学内外数多くの方のご協力を賜りました。特に,本学の多田功教授,東海大学総合医学研究所の相川正道教授,国立国際医療センターの狩野繁之部長,東京大学医科学研究所の堀江徹先生には,企画当初から親身なご指導,ご助言をいただきました。先生がたのご指導なくしてこの企画は成立し得ませんでした。

 また,企画協力者である菅野渉平さん(獨協医科大学),高梨さやかさん(千葉大学),高橋亮太さん(防衛医科大学校)は,企画内容に留まらず班員の宿・食事の世話に至るまでお世話になりました。

 また,この企画に参加されたすべての先生,学生の力添えが,内容をよりすばらしいものへと高めたことは間違いありません。城の石垣はどの1つの礎石が抜けても石垣でありつづけることができませんが,それと同じく,どなたがいらっしゃらなくてもこの企画をまっとうすることは不可能であったと思います。ご協力いただいたみなさんに心から感謝の意を表する次第です。